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高松高等裁判所 昭和35年(ラ)36号 決定 1960年6月11日

抗告人 大西馬茂

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙記載のとおりであつて、なお抗告人は、渡部亀義、渡部博一、渡部至各作成名義の各昭和三十五年五月三十日附歎願書と題する書面三通を提出した。

よつて審案するのに、戸籍上の名は個人に対する同一認識の基礎をなすものであるから、その変更を許可するためには戸籍法第百七条第二項に規定するとおり正当な事由があることを要するのであつて、その事由とは珍奇ないしは著しい難解難読の文字を名に用いてあることその他によつてその者の社会生活上にかなり著しい支障をきたす場合等をいうのである。しかし、抗告人の名「馬茂」はなんら珍奇なものでも難解或は低俗なものでもなく、またこれを所論の職業、社会的地位及び環境等との関連においてみても、この名のために抗告人の社会的信用が損われるとは到底認めることができない。記録によると、抗告人がこの名を幼少の頃から好んでおらず、殊に、いたずらか或は偶然か一部にこれを馬鹿(うましか)と呼ぶ者があつて、これまでに手紙などの表記にこのような記載をしてきた場合が幾度かあつたりしたために現在では自己の名に対する嫌悪の情が深刻であることを認めることができ、また一旦自己の名に深刻な嫌悪の念を抱いた者の主観的な苦痛が一般的にいつてなまやさしいものではなく、右の感情を克服ないし転換することが容易なものとはいえないことも理解することができるけれども、これらの事情を考慮にいれても本件では未だ前記の正当な事由にあたるということができない。

したがつて、抗告人の改名許可の申立は理由がなく、これを却下した原審判は相当で本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 谷弓雄 裁判官 橘盛行 裁判官 山下顕次)

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